2007.12.13

スケッチの効用

イメージ:スケッチの効用

語録に探る「デザインのトリガー」 ♯6
DH(プロダクトデザイナー)

バックナンバー

こんにちは、DHです。

これまで「探す・気づく」→「考える」→「つくる」→「広める」と、プロセスごとにお話してきました。今回は第2フェーズの「考える」です。

スケッチという思考法

デザインのテーマを「考える」時、いろいろな手法がありますが、その1つが「スケッチ」。

料理人が新メニューのアイデアを考えたり、華道家が新しいアレンジを考える時などにも、スケッチを描いたりしますが、「スケッチ」という思考法は、クリエイター独自の方法であり、他の職種の方からは不思議に思われたりします。

それは例えば、元ソニーのデザイナーでウォークマンなどに関わった黒木靖夫氏に向けた、研究部門の所長の言葉に象徴されています。

デザイナーさんは、私たち(研究所)の研究を高く評価してくれますが、方法論としては簡単なのです。開発研究には目的があり、私たちはその目標に向って進んでいけばいい。例えば富士山頂が目的だとしたら、須走口からアタックして失敗したならば、吉田口から再トライすればいいのです。
しかし、あなたたち(デザイナー)は何の理由もなく、白い紙の上に線を書きはじめる。なぜその線でなくてはならないのか、という明確な説明なしに書く。そこが私たち科学者には不思議なのです。

スケッチの機能

スケッチには、いくつかの機能があります。

機能1:「シミュレーション」
スタイリングを考える時に、全体の形状はもちろん、「ここは丸窓にして」「やっぱり四角窓にして、角Rはこのくらいで」などのディテールについて、さまざまなシミュレーションをペーパーや画面上で行なえます。
特に、いくつかのバリエーションを検討する際には、大きな紙に何点もスケッチを描いて、バリエーションを検討することがよくあります。

機能2:「アイディエーション、自問自答」
佐藤卓氏によると、「スケッチは、主観と客観の行き来である。脳で考えたことを、手という道具とさらに手に持った筆記具を使って一度外に出して、視覚からまた脳に戻して、そしてまた考えることを繰り返している。その連鎖の中でクリエイターは何かを見つけている」(『デザイナーと道具』より)。
このようにして、アイデアを生み(アイディエーション)、自問自答をしていくわけです。

機能3:「コミュニケーション」
例えば、デザイナー同士や社内の各部門を交えてアイデアの検討をする際、デザイナーたちが書いた、さまざまなスケッチを壁に貼ります。ここでは、スケッチがコミュニケーションのツールとして機能するわけです。なおこの時、多少、見栄えやハッタリ的な表現力が必要になる場合もあります。

アイデアスケッチ

スケッチの基本スキル

描く上で大事になるのは、まず「フリーハンドで直線をまっすぐ引けること」「円を正確に描けること」です。例えば、レオナルド・ダヴィンチが描いた「レスター手稿」。これも一種のアイデアスケッチですが、円が正確に描かれていることがわかります。

円もただ正確に描くのではなく、1円玉の大きさの円を正確にフリーハンドで描く、次は5円玉の大きさ、10円玉……という練習をしたりもします。学校などでトレーニングされた方もいるのではないでしょうか。

「落とし穴」と対処法

一方でスケッチは、頭の中にあるものがビジュアライズされるので、思考がそれに引っ張られてしまったり、発展していかなくなったり、という「落とし穴」もあります。

しかし、穴に陥らないようにする対策はいろいろあります。

なかなか描かない。

  • 奥山清行氏(Ken Okuyama Design代表、元イタリア ピニンファリーナ社デザインディレクター)

描いている手が別の人格を持っているかのように、客観視しながら描く。

私は絵コンテを毎日描きます。その時は、これまで描いたものはすっかり忘れるのです。

プロダクトデザインの場合、必ずしもスケッチが必要ではありません。プロダクトデザイナーの中にはスケッチを描かず、いきなりモデル作りに取り掛かる人もいます。柳宗理氏はスケッチを描かずにいきなり紙を切り、曲げはじめて試行錯誤を行うそうです。

この辺りの手法は人によってさまざま。みなさんも、自分に合った「スケッチしながら考える方法」を探してみてください。
ただ漠然と、漫然とではなく、こうしたことを意識しながら描くだけでも、スケッチの内容が不思議と違ってくるものです。ぜひ一度お試しください。

(プロダクトデザイナー DH)

関連リンク

語録に探る「デザインのトリガー」のバックナンバー
黒木靖夫(Wikipedia)
佐藤卓(佐藤卓デザイン事務所)
デザイナーと道具(佐藤卓著/Amazon)
レオナルド・ダヴィンチのレスター手稿
佐藤可士和(サムライ)
奥山清行(Ken Okuyama Design)
ユーリー・ノルシュテイン(ユーリー・ノルシュテイン情報サイト)
柳宗理(公式サイト)

DHさんプロフィール

60年代後半生まれ。機械工学部を卒業し、電気製品メーカーでプロダクトデザイン、プロモーション、業界紙広報、提案営業、商品ユーザビリティ部門のマネジメントなど、さまざまな職種に関わる。現在は環境関連のプロダクトがメイン。休日は展示会、セミナー、デザインイベントなどを散策。スーパーや100均ショップで、ちょっとした生活道具や雑貨にいちいち気を取られてしまうのが弱点である。

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