こんにちは。Makis.です。すっかり秋めいてきましたね。日本はいかがでしょうか? ベルリンはすっかり寒くなり、暖房を入れて冬支度に余念がありません。
今回はドイツ、タイポグラフィ界の大御所、北野武といった貫禄のヴォルフガング・バイナート(Wolfgang Beinert)氏を紹介したいと思います。
「良いタイポグラファーこそが良いデザイナーになり得る」
ヴォルフガングに初めて会ったのは、ミュンヘン芸術アカデミー(Akademie der Bildenden Kuenste Muenchen)の近くにあった、彼のアトリエ兼自宅。黒服、黒眼鏡、坊主頭で巨漢な彼が玄関のドアを開けた時、その雰囲気に圧倒されてしまいました。そんな彼の後ろから優しく迎え入れてくれたのが真っ黒で大きな愛犬(フラットコーテッドレトリバー)のバルー。彼のおかげで緊張が解けたのでした。そして、実際に話しみると、やさしく、チャーミングな人物だということがわかったのです。

見た目がなんとなく“北野武”風なウォルフガング(左)と、彼の愛犬バルー。
彼は最初からデザイナーだったわけではありません。最初は映像・映画・写真と、カメラを持つ仕事をしてきました。その中で、デザインへの道が自然に開けてきたそう。彼の口癖は、「良いタイポグラファーこそが良いデザイナーになり得る」というもの。それは、彼自身の仕事での経験からくるのかもしれません。
“日本人女性のために作った作品”で、TOKYO TDCを受賞。
ウォルフガングは日本のTOKYO TDC(The Tokyo Type Directors Club)で3回の受賞歴があります。1993年、1994年は冊子、2002年にはルードヴィヒ2世をモチーフにしたカレンダーで賞を受賞しました。


2002年受賞したルードヴィヒ2世をモチーフにしたカレンダー
「Everything good is fragile ... Save it!」
ウォルフガングのメールの終わりには「Everything good is fragile ... Save it!(全ての良いものは脆く壊れやすい...守れ!)」というメッセージが添えられています。これは彼の座右の銘とのこと。3年前までは「Buchstaben koennen ziemlich sexy sein.(文字はとてもセクシーでありうる)」でした。大変印象的だったので、いまだに忘れられることができません。

自分のサイト用画像。「Everything good is fragile ... Save it!」と書いてある。
偶然にも、前回のアンドレアス・トプファーも「“FRAGILE”への憧れに自分のデザインの精神がある」、と言っていました。
長いことタイポグラフィーに携わってきた彼にとってタイポグラフィーとは「知識、歴史、思想、伝達の科学であり、人類の歴史」だといいます。
ここ数年の文字がデジタル化したことで見られた「文字の個性化」は、かつての書やカリグラフィーへの返還の傾向がある、と私は感じていました。彼はどのように感じているのでしょうか。
Web百科辞書「TYPO LEXIKON」の執筆
巨匠としてドイツタイポ界で名を馳せことになったのは、「TYPO LEXIKON(タイポ百科辞書)」をWeb上で執筆したことからでした。

「TYPO LEXIKON」トップページ(左)
AからZまでタイポグラフィに関する用語を引くことが出来る(右)
この辞書は2001年から彼自身が行ってきたタイポグラフィーについての研究を、ドイツの学生に向けてWeb上で検索できるよう集約したことから始まり、現在に至っています。その後、ドイツの学生だけでなく、タイポグラファーのバイブルとして世界中の専門家や作家から活用されるようになりました。
ドイツ国内でゆるぎない名声を築いてきた彼ですが、駆け出しの頃はさまざまな苦労をしました。たとえば、写真の仕事をしていた時代にはカメラメーカー、Leicaに作品を持ち込んで売り込み、仕事をもらった事など、数え切れないほどです。
また、自分の作品には妥協をしないウォルフガングは、印刷の際は必ず現場に足を運び印刷の品質を自分の目と手で確かめ納得がいくまで作業をするそう。時には印刷工場に泊り込んだこともあったとか。彼の風貌からは、そんな過去は感じさせませんが、夕食を囲んで時々話してくれる伝説の苦労話は大変興味いモノでした。

ほかのタイポグラファーとの会談中。(左)
必ず現場でインクの調合から刷り上りまで全てのプロセスを確認する(右)
心地よいアトリエでから流れる芸術
風通しが良く、広々とした空間に厳選された家具が配置され、その贅沢な空間の中に漂う静寂。彼のアトリエには重厚な空気が漂っています。このベルリンにあるアトリエ兼自宅には、なにか目に見えない境界で外界と区切られた聖域のような雰囲気があり、彼の重奏な芸術は、その空間の中で醸造されているように見えました。
日本に興味があるというウォルフガング。もしかしたら近い将来、日本にやってくるかもしれませんね。

アトリエ兼自宅。手前の黒い物体は愛犬バルー。
次回は、ベルリンを拠点にドイツ国内にとどまらず、ニューヨーク、フランスで精力的に活動している若手アーティスト2人組「44Flavours」を特集したいと思います。お楽しみに!
ヴォルフガング・バイナート(Wolfgang Beinert)プロフィール
1960年 フランクフルト(アム・マイン)生まれ
3人兄弟の長男として生まれ、7歳の時に友人からもらったカメラAgfa Boxで写真を始めたことから造形の道へ。ミュンヘン映画学校で学んだ後、1990年アウグスブルグに広告代理店を立ち上げる。1992年、バイナート・グラフィックスタジオを立ち上げ、憧れであったLeicaやBMWのグラフィックデザイナーとして働き、今に至る。2002年のThe Tokyo Type Directors Club(TOKYO TDC)での受賞を始め、世界各地での展覧会、受賞多数。
関連リンク
Makis. のベルリンデザイン日誌 バックナンバー
Wolfgang Beinert
Akademie der Bildenden Kuenste Muenchen
TOKYO TDC
ルードヴィヒ2世(Wikipedia)
reddot-Award
TDC New York
TYPO LEXIKON
Verlag Hermann Schmidt Mainz
Leica
44Flavours
Agfa Box(Wikipedia:ドイツ語)
BMW
Makis.さんプロフィール
ドローイング作家・イラストレーター。ベルリン在住。ドイツで第一作目の作品集「Makis Haustierbuch(家動物本)」(Peperoni Book/Berlin/2006年)を出版。以来ベルリンを拠点にドローイングを主体とした制作を展開し、イラストレーション・コミック・版画等、様々な分野で活動中。「Makis Haustierbuch」はAmazonで購入可能。
http://www.makishimizu.de/
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