2008.09.18

ベルリン発製本「新・和綴じ」

イメージ:ベルリン発製本「新・和綴じ」

Makis. のベルリンデザイン日誌 ♯1
Makis.(from ベルリン)

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はじめまして。ベルリン在住のドローイング作家、Makis.です(友人からはマキスン。と呼ばれています)「Makis Haustierbuch(家動物本)」を制作したことがきっかけで、出版社のあったベルリンを拠点にグローバルな視野を持ちつつ、地域に根付いたアート活動を目指し、さまざまなジャンルで活動中です。

私の暮らす街ドイツの首都ベルリンでは、いたるところで芸術家があふれ、どこへ行っても自分のスタイルやスタンスで"モノ"が作られています。そんなベルリンのデザイン現場から旬な話題をお届けしたいと思います。初回は本の装丁からフライヤーなど幅広く活躍しているデザイナーをご紹介しましょう。

たった一枚のフライヤーからの偶然の出会い

ベルリン出身のデザイナー、アンドレアス・トプファー(Andreas Toepfer)との出会いは、たまたま自分のアトリエで手にした、一枚のコンサートのフライヤーからでした。なぜか私の中で印象に残り、「誰がつくったのだろう?」と気になっていたのです。

VolksbuehneGruensalonコンサートフライヤー:Illute VolksbuehneGruensalonコンサートフライヤー:Sternabwaerts
VolksbuehneGruensalonコンサートフライヤー
(右)Illute(シンガーソングライター)、(左) Sternabwaerts(バンド)

その数日後、友人である写真家、クリスティアン・ティーフェンゼー(Christian Tiefensee)の写真作品集の手伝いの現場で、私はそのフライヤーの制作者であるアンドレアス本人と偶然出会うことに。彼に自身の作品への姿勢や、作り手としてのこだわりを聞いてみました。

背が丸見え!「新・和綴じ(日本綴じ)」という製本方法

彼と実際に出会うきっかけとなったクリスティアンの写真作品集「Refugium(逃避)」の製本はちょっと変わっています。というのも、下の写真を見ていただいた通り、本の背の部分がむき出しになっているのです。
 

クリスティアン・ティーフェンゼーの写真作品集「Refugium(逃避)」 3278_04.jpg
写真作品集「Refugium(逃避)」。むき出しの背が印象的(右)

「接着剤そのまま製本」(と私が勝手に命名した)は、最近ベルリンでよく見かけるようになってきた製本方法。この本の綴じ方についてアンドレアスに聞いてみました。

【アンドレアス】この製本はここでは「日本綴じ」と呼ばれているよ。

「え?日本綴じ? 」と、アンドレアスの言葉に驚いてしまいました。なぜなら、私が知っている「和綴じ」とは違うものだったから。

【アンドレアス】普段僕たちが「和綴じ」として知っているのは、ページのめくる部分が「わ」になっていて中身と表紙を一緒に糸で綴じたものだね。このクリスティアンの写真作品集のように、表紙で中身を包まずむき出しの仕上げにすることを、僕らの間では「糸をそのまま見せる」という意味で「日本流」と呼んでいるよ。

普通の本はこの状態に表紙が付けられて仕上がるのだけれど、裸の状態だからこそあるその繊細さが、今回のクリスティアンの作品にぴったりだと思ったんだ。

この本には他にも工夫が凝らしてあります。本来はつるつるな小口側(本を開く側の断ち口の部分)に毛羽立たせる加工をほどこし、ざらざらとした感触をつくりました。このことによりページをめくったときの手触りをデリケートにしたそう。本箱はライプツィヒの箱専門家に特注し、シルク印刷で仕上げてあります。また、3ヶ国語で出版したこの本では特に書体にもこだわったとか。

【アンドレアス】今回ドイツ語・英語・日本語とそれぞれの言語にあった書体を選んだのだけれど、日本語は全く読めないし、初めての経験だったから、楽しみながら作業をしたよ。
写真の左側に、それぞれの言語に合わせて選んだ書体が並ぶ 3278_08.jpg
写真の左側に、それぞれの言語に合わせて選んだ書体が並ぶ

Christian Tiefensee写真作品集 「Refugium(逃避)」

Christian Tiefensee写真作品集 「Refugium(逃避)」価格:
21€(送料:ドイツ国内1,50€、日本へ5€)
購入方法:
・宛先
・冊数
を英語かドイツ語で明記の上、メールにてご注文ください。入金確認後、発送します。日本への発送は1〜2週間ほどかかります。

自分の仕事に社会的・文化的に意味があることが、僕のやりがいになっている

子供の頃からデザイナーに憧れていたアンドレアスは、トラビ(トラバント)という段ボールの素材でできた旧東ドイツ時代の自動車の新モデルを作りたい、との夢から工業デザインの道に。しかし、途中で自分のやりたいことに近いと感じるようになった「自由芸術」に転換しました。そんな彼の仕事における刺激とは、どこからやってくるのでしょうか?

【アンドレアス】僕はこれまでに、音楽(KOOK LEBEL)、文学(KOOK BOOK)、演劇(SOPHIENSAELE)を三本柱にやってきた。また、Milchhofというアトリエ共同体にも参加していて、そこで仲間と仕事をしながらお互いを刺激しあっている部分も大きいと思う。

自分の仕事に社会的・文化的な意味があることにやりがいを感じているというアンドレアス。自分たちだけでやってきたので、最初は稼げる仕事ではなかったとか。今でも昔と同じように“最小の予算で最大の仕事をしよう”ということを徹底しているそう。

【アンドレアス】「Freischwimmer」というSOPHIENSAELEのイベントのポスターのシリーズは、4色刷りオフセット用の予算の中で面白いことがやりたいと考えたんだ。そうしてこの黒1色で刷り上げた6種類のモチーフの作品ができた。このポスターは本当に存在感のある仕上がりになって、街頭でも強い存在感があったよ。自分でも満足している。
「Freischwimmer」のポスターシリーズ
「Freischwimmer」のポスターシリーズ。6種類のモチーフで成り立つ。

SOPHIENSAELEのポスターには他にもポスターを1年間集めると、ロゴができる……という仕組みのものも。

一枚一枚は「a」だったり「a」だったり。 ポスターをつなぎ合わせると「SOPHIENSAELE」のロゴに
一枚一枚はアルファベット(左)、つなぎ合わせると「SOPHIENSAELE」のロゴに(右)
【アンドレアス】ほかの仕事にも言えることだけれど、僕はシリーズとして全体の意識を持って制作している。そのことによってそれぞれのパーツに意味を持つことができ、それを発展させる楽しみがある。「個」になにか確かな感覚を持てるし、そして劇場側やクライアントにも説得力がある。デザインは実際のところ雇われ仕事(Dienstleistung)だといわれるけれど、僕は芸術のプラットフォームのひとつだと思っているんだ。
KOOK KLUBとKOOK LEBELの作品
KOOK KLUB(上)とKOOK LEBEL(下)の作品。
それぞれがひとつのシリーズとして成り立っている。

これからも素晴らしいアーティストとコラボレーションをしていきたい

これまでコンピューターは道具の一つだという感覚で使ってきたといいます。でも、最近は紙の感覚がちょっと恋しくなって鉛筆や筆でスケッチブックにいろいろ書き始めたそう。そんな彼がこれからやりたいこととはどんなことなのでしょう。

【アンドレアス】最近は「Durch Dick und Duenn」という本をカナダ出身のサマラ・チャドウィック(Samara Chadwick)と作ったんだ。絵とドイツ語の部分を僕が、英語の部分をサマラが書いたのだけれど、一見すると、翻訳のようで実はそれぞれの言語で別次元のストーリーが微妙に交差しそうでせず展開しているという面白い本だよ。
「Durch Dick und Duenn」 赤文字は英語、黒文字はドイツ語の文で書かれている
「Durch Dick und Duenn」。赤文字は英語、黒文字はドイツ語の文で書かれている(右)
【アンドレアス】今後は、詩人のヤン・ヴァグナー(Jan Wagner)とのコラボレーションをやってみたいね。彼の作品に自分のものづくりと同じ姿勢や思考をすごく感じるんだ。ただ、若手とはいえ彼はベルリンの中でも最も注目されている詩人の一人だから、いつか叶えばいいな、みたいな憧れとしてなんだけれど(笑)

スタジオの天井まで山のように積まれた作品に驚き

クリスティアンの写真作品集のために初めて彼のスタジオを訪れたとき、「まだ引っ越してきたばかりで」と、蓋の開いていない段ボールが天井までうず高く詰まれていました。その山の上になにげなく立てかけてあった、3枚の大きなドローイングがとても印象的だったことを覚えています。

アンドレアスのスタジオの様子
アンドレアスのスタジオの様子

今回、スタジオを再訪したところ、何十枚もの新作のドローイングが作業場の壁一面につるされていました。膨大な作品量に再び圧倒されつつ、初対面の時に少し照れながら自身の作品を紹介してくれた彼の姿を思い出しました。相変わらず精力的に作品を作り続けているアンドレアス。これからも面白いモノをたくさん見せてくれることでしょう。

来月もベルリンから面白いお話をお届けいたします。お楽しみに。

アンドレアス・トプファー(Andreas Toepfer)プロフィール

1971年 ベルリン生まれ。ハレ芸術工科大学で工業デザイン専攻後、ベルリンのヴァイセンゼー芸術大学に転学。その後ロンドンRCAで工業、製本、コミュニケーションデザインを学び、1999年、絵画科を卒業。2000年以降はフリーランスのグラフィックデザイナー、画家、アートディレクターとしてベルリンを拠点にドイツ国内・国外と幅広く活躍中。

(Makis. from ベルリン)

関連リンク

Makis. のベルリンデザイン日誌 バックナンバー
Makis Haustierbuch(家動物本)
Andreas Toepfer
Christian Tiefensee
和綴じ
トラバント(Wikipedia)
KOOK LEBEL
KOOK BOOK
SOPHIENSAELE
Milchhof
Durch Dick und Duenn(Amazon)
Jan Wagner

Makis.さんプロフィール

ドローイング作家・イラストレーター。ベルリン在住。ドイツで第一作目の作品集「Makis Haustierbuch(家動物本)」(Peperoni Book/Berlin/2006年)を出版。以来ベルリンを拠点にドローイングを主体とした制作を展開し、イラストレーション・コミック・版画等、様々な分野で活動中。「Makis Haustierbuch」はAmazonで購入可能。
http://www.makishimizu.de/

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