これまで西東京に集中していたアニメスタジオが、地方に進出するケースが増えている。ここから読み取れる、アニーション制作の現場の変化を考えてみよう。
より良い制作環境の実現と地方活性化を目指して
劇場アニメ『空の境界』を手掛けるなど、その質の高さから人気のアニメスタジオ、ユーフォーテーブル。2000年に設立した新進のスタジオで、2D アニメーションの制作以外にも実写映像制作やCG制作、クレイアニメにコミック制作もこなす特異なアニメスタジオとしても知られている。

ユーフォーテーブルが手掛けた、劇場アニメ『空の境界』。
独特の演出と、質の高い映像が支持され、DVDの売上げも既に40万枚を超える大ヒット作に
©奈須きのこ/講談社・アニプレックス・ノーツ・ufotable
そんなユーフォ-テーブルが、昨年末に徳島で新規スタジオを開設するとともに、2009年度の採用を行うことを発表した。その狙いを同社の代表取締役、近藤光氏に伺ってみると、
「ひとつに制作会社としてのクオリティ管理を今まで以上にしっかりやっていこうという考えからです。うちはこれまでにも、作業の多くを社内スタッフが行うことでクオリティの維持を保ってきました。そこで、今後の人材育成を進めるにあたっての新たな試みとして捉えています。もうひとつに、スタッフの環境整備という点があります。仕事があるということが前提にはなりますが、美しい海が見える職場で仕事をするというのは圧倒的に快適なことですからね」
と近藤氏。その言葉からは、より良い制作環境がより良い作品作りに繋がるという考えが見えてくる。では何故徳島だったのだろうか。
「単純に僕の地元が徳島だったこともあります(笑)。それと私事ではありますが、この業界に入ってから常に仕事に追われる日々で、なかなか地元に帰ることができませんでした。でも今回のこともあって、20年ぶりにゆっくりと街を回る機会があったんですね。すると大きな衝撃を受けました。ニュースで地方の過疎化が進んでいるとは聞いていましたが、まさにその風景が目の前にあったのです。そこで、少しでも地元に恩返しができるのならばと思ったことも今回の契機になっています」。

高円寺にあるユーフォーテーブルのオフィス風景。
一貫した社内制作を行うことでクオリティの維持を目指している
近藤氏がこのように感じたように、全国的に企業の都市集中型が進んでおり、現在地方の過疎化は深刻な問題となっている。もちろん、地方もこの現状をそのまま静観しているわけではない。近くでは3月に石川県で「石川コンテンツマーケット2009」が、高知で「高知まんが・コンテンツビジネス塾」が開かれるなど、地域に根付いたコンテンツ産業の活性化や誘致活動が積極的に行われている。
こうした後押しもあり、ユーフォーテーブルの徳島スタジオの開設が決定した。「これを機に、改めてアニメの存在意義から考えていこうと思ってます」と近藤氏が語るように、過去の慣習に捕らわれない新たなアニメ制作スタイルを作り上げる上で、大きな一歩であると感じられる。
デジタルが変えた制作フローとビジネス体系
前述したユーフォーテーブルの他にも、古参スタジオでも地方進出の動きが出てきた。例えば、2009年4月に豊田市にアニメーメーター養成所を開設するスタジオジブリや、新潟に作画スタジオを開設するプロダクションI.Gなどが挙げられる。
こうした地方進出の背景には、デジタル制作の浸透と光ケーブルをはじめとするデータ通信技術の進化がある。これらの恩恵を受けることで、たとえ遠方にいてもデータのやり取りが容易に行えるため、分業プロジェクトであっても必ずしも都内にスタジオを構える必要がなくなったからだ。
実際に、都内ではなく地方に主体をおき制作を行うスタジオも増えてきている。京都の宇治市に本社を構える京都アニメーションにおいては、早くより社内制作を徹底しており、2006年に制作された『涼宮ハルヒの憂鬱』では個性的な演出方法からアニメファンのみならずエンターテインメントビジネスとしても大きな話題を呼び、まさにブランド化に成功したスタジオと言える。
これは、従来は典型的な労働集約型だったアニメ制作が、知識集約型により付加価値を得られる産業へ転換するチャンスと言える。ゲーム産業では福岡市が積極的な展開を見せているが、今後はアニメと言えば○○市といったコピーを謳う自治体が登場するかもしれない。
日本でアニメが生まれてから早50年以上が経った。当然ながらその頃と比べて、制作手法だけでなく観る側の嗜好も変わってきた。また視聴方法も様変わりし、年々多くの作品が生み出されている。
日本のみならず海外からの注目も集め、今や日本を支える産業のひとつになった日本のアニメ。その一方で、依然アニメ産業の黎明期から課題となっているアニメーターの賃金体系だけでなく、新たな課題も多々生まれてくることだろう。いずれにせよ、今まさに転換期を迎えていることは確かだ。
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