2008.09.05

中島哲也監督インタビュー

イメージ:中島哲也監督インタビュー

いちばん大切なのは、技術ではなく「目指す表現」が共有できているか
パコと魔法の絵本 連動特集 ♯1

バックナンバー

9月13日、全国東宝系にていよいよ公開となる『パコと魔法の絵本』。『下妻物語』『嫌われ松子の一生』に続く、中島監督の新作だ。本作最大のチャレンジとなったのが、CGによるキャラクターアニメーション。実は、中島哲也監督がフルCGを演出するのは本作が初めて。なぜCGを採用したのか、そのねらいと、目指す表現を実現させるために心がけた演出法について話を聞いた。

©2008「パコと魔法の絵本」製作委員会
©2008「パコと魔法の絵本」製作委員会

パコの目線で描くにはCGが必須だった

映画『パコと魔法の絵本』は、04年に全国で公演された舞台「MIDSUMMER CAROL ガマ王子vsザリガニ魔人」(作・出演:後藤ひろひと)が原作の作品である。今年になって再公演されるほどの人気作を映像化するにあたり課題となったのが、「舞台で繰り広げられる生身の役者の演技のテンションをいかにして、映画に継承させるか」であった。

【中島】舞台であれば、目の前で役者さんが迫力ある芝居を見せてくれるので、着ぐるみでも十分観客を作品世界に引き込めます。芝居を観ている内に、段々と役者が演じてるキャラクター本人に見えてきて、自分もその世界にいるような気持ちになった経験が誰しもあることでしょう。それに倣い映画化するにあたっては、実際に演劇を観ている人の気持ち、つまり劇中劇を観るパコ目線で描く(劇中ではパコには大貫がカエルとして見えているから)手法として、フルCGによるキャラクターアニメーションを思いつきました。
©2008「パコと魔法の絵本」製作委員会
©2008「パコと魔法の絵本」製作委員会

本作の後半では、パコが持つ絵本の物語を劇中劇として登場人物たちがパコに見せていく。そこで、パコの感情移入が高まるのに併せて、登場人物が実際に演じる生き物たちに入れ替わる(カットバック)手法を試みている。また、世界観としても絵本の世界に入り込んでしまったようにするべく、遠景の空なども質感はリアルだけどバランスとしては非現実的といった具合に、ファンタジー色が強いものが目指された。これらの非常に複雑なVFXを制作するに際し、まず詳細な絵コンテを準備するところから始められた。

【中島】『松子』公開直後から絵コンテを描いていきました。僕がやりたかったのは、俳優からCG、逆にCGから俳優に戻るといったカットバックを相当細かく繰り返すし、画面内の要素も複雑だけど、観ている人たちは気持ちでスーッと作品世界に入り込めるというものでした。その実現には、フルCGはもちろん、実写カットでも背景を再構築する必要があったため、大半の芝居カットの絵コンテを作成しました。CGでいけるかいけないかで、構成自体も変わってくるため、増尾CGディレクターや柳川瀬VFXスーパーバイザー達とは月イチペースで何度も打ち合わせを重ねました。
  • 増尾CGディレクター
老舗CGプロダクション、(株)ルーデンス代表取締役/増尾隆幸氏のこと。増尾氏は本作のCGディレクター並びにCGプロデューサーを務めた。ちなみに増尾氏と中島監督は00年のACCグランプリを受賞したTVCM、サッポロ黒ラベル『温泉卓球篇』以降、9年来タッグを組む仲
  • 柳川瀬VFXスーパーバイザー
日本を代表するInfernoアーティスト、柳川瀬雅英氏のこと。中島監督の過去2作品でもビジュアルアーティストとして参加しているが、本作ではVFXスーパーバイザーとして、最終的な合成クオリティを全面的に監修している

もちろん絵コンテ制作に続き、アニマティクスも入念な試行錯誤を経て制作されたのは言うまでもない。

シンプルなビジョンを掲げ精度を高めていく

実写とCGのカットバックというあまり例を見ない表現に挑むにあたり、綿密なプリプロが行われたが、監督が各作業工程で逐一チェックしたという訳ではない。

©2008「パコと魔法の絵本」製作委員会
©2008「パコと魔法の絵本」製作委員会
【中島】プリプロを綿密にやっても、どうしても漏れは出てきます。それが数百カットともなれば、物凄い物量です。個々のカットのCG作業も非常に手間暇がかかることは今までの経験からよく分かっていたので、決められることはその場で決めて、極力を無駄を省くようにはしました。後から別の手段を思いつくこともありますが、先に進めることを心掛けないと、フェイシャルのような、一番試行錯誤が楽しめる作業に時間を割けなくなりますし。

例えば、ガマ王子というカエルのキャラクターであれば、質感についてはCGディレクター増尾氏独自のこだわりがあり、そこに監督が細かく口を挟んでいたのでは、本来追求すべき構成や演技プランが疎かになってしまう。そこで、監督としてはNGを出す際は極力シンプルな形で、目指すゴールに対して不足している点を指摘することを心掛けているという。

【中島】ガマ王子がザリガニ魔人を睨み付ける表現の場合、僕は『これでは弱い』とだけ指摘します。すると、ルーデンスが弱さの原因は黒目と白目の割合なのか、瞼の動きなのかといった、実務レベルで精査していくという流れです。こうしたやり取りは全カットでやっているのでリテイクのないカットは1つもなかったですね。
©2008「パコと魔法の絵本」製作委員会
©2008「パコと魔法の絵本」製作委員会

このシンプルなディレクションの裏には、スーパーバイザーやアニメーターといった各担当レベルでスペシャリストとしてのこだわりを発揮するべきという信条があるのだ。

取材を通して中島監督は、「どういう映像に仕上げたい、観客に何を伝えたいのかをすべてのスタッフの間で共有することが一番大切」だと繰り返し語っていた。例えば「活き活きと見せる」といった表現の方向性を伝えることは、「シェーダは○○を使うこと」といった具体的な指示とは異なるものだが、本作では全編でブレがない。もちろんパイプラインの効率化なども現場でレベルでは重要なことだが、日本のVFX業界の非効率性の要因は、実は「ビジョンの共有の不徹底」といったことにもあるのかも知れない。

©2008「パコと魔法の絵本」製作委員会
©2008「パコと魔法の絵本」製作委員会
(月刊CGWORLD)

関連リンク

パコと魔法の絵本
下妻物語
嫌われ松子の一生
中島哲也(Wikipedia)

中島哲也監督プロフィール

3210_01.jpg1959年生まれ、福岡県出身。明治大学卒業後、日本天然色映画(現ニッテンアルティ)を経て、独立。サッポロ生ビール<黒ラベル>『温泉卓球』篇にて、00年ACCグランプリを獲得するなど、多くのヒットCMを世に送り出す。学生の頃から映画制作にも積極的に取り組んでおり、満を持してメジャーデビューした映画『下妻物語』(04)では、CMで培った独創性あふれる演出が大いに話題を集めた。続く、『嫌われ松子の一生』(06)では不幸な女性の一生を、ミュージカル仕立てにすることで画期的なエンターテインメメント作品に仕上げ、こちらも大ヒット。現在、日本映画の新境地を切り開く監督として、さらなる活躍が期待されている。

このエントリーをブックマークする

このエントリーにトラックバックする

このエントリーのトラックバックURL
http://withd.jp/mt/mt-tb.cgi/2703


株式会社ロボット|クリエイターインタビュー |イマジカデジタルスケープ共同募集